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仙台高等裁判所 昭和58年(ネ)93号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告)

清水弥祖八

被控訴人・附帯控訴人(原告)

清水勝一

ほか一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

「控訴人は被控訴人各自に対し各金四一三万〇一二八円及びこれに対する昭和五五年一二月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人らのその余の請求を棄却する。」

被控訴人らの附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ一〇分し、その二を被控訴人らの、その余を控訴人の各負担とする。

この判決は被控訴人ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決並びに附帯控訴として、「原判決中被控訴人ら敗訴の部分を取消す。控訴人は被控訴人らに対し各六二万一一六九円及びこれに対する昭和五五年一二月三日から完済まで各年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の主張は左記のほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(被控訴人ら)

逸失利益の主張を次のように変更し、請求を拡張する。

逸失利益 各八七〇万六一八八円

(一)  年収 三七九万五二〇〇円

昭和五七年賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計の男子労働者の学歴計、年齢計の給与額による。

(246,100×12)+842,000=3,795,200

(二)  就労可能年数 四九年間(一八歳から六七歳まで)

(三)  中間利息控除 ライプニツツ係数 九・一七六

(四)  生活費控除 二分の一

(五)  計算 3,795,200×9.176×1/2=17,412,377

(六)  被控訴人らは右金額のうち各二分の一にあたる八七〇万六一八八円ずつを相続した。

よつて、損害の合計被控訴人各自五二六万六一八八円のうち原判決認容額を控訴した各六二万一一六九円及びこれに対する昭和五五年一二月三日から完済まで各年五分の割合による金員の支払を求める。

(控訴人)

逸失利益の計算について昭和五七年の賃金センサスを適用することはできない。

(証拠関係)

証拠関係は記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所の判断は、左記の付加訂正のほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  逸失利益についての認定を次のように訂正する。

被控訴人らは逸失利益の損害額が本件事故当時において確定したものとして昭和五五年一二月三日からの遅延損害金を請求しているのであるから、逸失利益の計算にあたつては昭和五五年の賃金センサスを使用すべきである。

清水督悦が昭和五一年七月六日生れの男子であつたことは当事者間に争いがない。同人は本件事故がなければ一八歳から六七歳まで四九年間就労可能であつたと認められる。昭和五五年の賃金センサスの産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計によれば、男子の平均賃金の年間合計は三四〇万八八〇〇円(二二万一七〇〇×一二+七四万八四〇〇)である。被控訴人ら援用のライプニツツ係数により中間利息を控除し、生活費二分の一を控除すると、次のようになる。

3,408,800×(19.0750-9.8986)×1/2=15,640,256

被控訴人らは各々右金額の二分の一である七八二万〇一二八円ずつを相続したことになる。

2  原判決六枚目裏一〇行目の「各金三九万五〇〇〇円」を「各金四四万五〇〇〇円」と訂正する。

3  過失相殺の主張に対して、次の理由を加える。

成立に争いない甲第一四ないし第二一号証によると、次のように認められる。

本件事故現場は南北に通ずる幅員七・二メートルの道路と東西に通ずる幅員五メートルの道路の交差点で、右両道路とも歩車道の区別なく、右交差点には信号機は設置されていない。控訴人は、普通貸物自動車を運転して北方から南進してきて、右交差点手前で、約一二メートル先の進行方向右側の道端(交差点の北西隅)にも自転車に乗つた幼児督悦がいるのに気付いたが、右交差点で右折西進するにあたり、左方(東方)だけ注意して、右側の督悦の動静に全く注意を払わずに右折進行したので、控訴人車が交差点内北西隅付近で斜めになつている時、自車前部を督悦の自転車(当初の発見地点より約二メートル南方)に接触させたのに、直ちにこれに気付かず、右自転車を自車の下に引きずつたまま約七メートル進んで異常を感じてブレーキをかけ、接触地点から約一四メートル進んで停車した。なお、事故現場は被控訴人らの居宅から約二〇メートルの距離にある。

右のように認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定によれば、督悦は南北に通ずる道路の右端を南進していたと認められる。自転車は道路の左端に寄つて進行すべきであるから、右端に寄つていたのは違反であるけれども、督悦が四歳四か月の幼児であること、右側とはいえ道路の端に寄つていたことにかんがみ、右端に寄つていたことを過失相殺の原因として捕えるのは相当でないと考える。そのほか、督悦に過失相殺の原因たる事実は認められない。

控訴人は被控訴人らの親としての監督義務違反を主張するけれども、事故現場は被控訴人宅から約二〇メートルの所であるから、督悦の自宅付近といえるのであり、たとえ道路上であつても、幼児が自宅付近で遊んでいることは通常であり、かつ、督悦は道路の端にいたのであり、道路の中央で遊んでいたとか、車の直前で飛び出したとかいうのではないから、被控訴人らに監督義務違反があるとはいえない。

4  以上の認定によれば、被控訴人らの請求は各四一三万〇一二八円及びこれに対する昭和五五年一二月三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべく、その余は失当である。

よつて、これと異なる原判決を右のように変更することとし、なお、被控訴人らの附帯控訴を棄却することとし、民事訴訟法三八四条、三八六条、九六条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤幸太郎 石川良雄 宮村素之)

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